ここではNC理論(ニューカイロプラクティック理論)において重要な概念でもあるカップリングモーションについて解説していきます。

カップリングモーション(Coupling Motion):脊柱の複合運動
カップリングモーションとは、脊椎の特定の運動分節において一つの基本運動(例:側屈)が生じた際に椎間関節の形状の影響により他の運動(例:回旋)が自動的かつ不可避的に組み合わされて発生する複合的な動きを指します。
この現象はヒトが直立二足歩行を行う上で不可欠な機能であると考えられていますがその発生メカニズムの全体像は現在も研究が続けられています。
この概念の起源は1905年にオステオパシーの医師であるハリスン・H・フライエット(Harrison H. Fryette, D.O.)が提唱した「脊椎運動の原則(Fryette’s Laws)」に遡ります。この原則はカイロプラクティック、オステオパシー、理学療法といった徒手療法の分野において脊柱の機能不全を評価しアジャストメント(調整)のベクトルを決定するための基礎理論として広く利用されています。
【フライエットの法則:カップリングの三原則】
カップリングモーションのパターンは、脊柱の姿勢や部位によって異なり、フライエットの法則によって体系化されています。
・第1法則(ニュートラル・メカニクス):脊柱がニュートラルな姿勢(屈曲も伸展もしていない状態)にあるとき、側屈と回旋は反対側に起こります。この法則は主に胸椎および腰椎に適用されます。
・ 第2法則(非ニュートラル・メカニクス):脊柱が屈曲または伸展している状態(非ニュートラルな姿勢)にあるとき、側屈と回旋は同じ側に起こります。この法則も主に胸椎および腰椎に適用されます。
・第3法則(運動の相互作用):一つの平面で運動が導入されると他の二つの平面での運動は制限(減少)されます。これは、関節機能不全(フィクセーション)が複数の運動に悪影響を及ぼすということを意味します。
【脊柱部位別のカップリングモーションパターン】
脊柱の運動特性は椎間関節の形状に依存するため、頸椎、胸椎、腰椎でそのパターンが明確に異なります。
頸椎(Cervical)
頸椎は、頭部の動きを制御する上で最も複雑なカップリングパターンを示し、機能的に上位と下位に分類されます。
上部頸椎 (C1-C2) :側屈方向と反対側へ回旋する。
下部頸椎 (C3-C7): 側屈方向と同側へ回旋する。
下位頸椎の「側屈+同側回旋」というパターンは、首をかしげる動作(同側側屈・同側回旋)として、上部僧帽筋の線維走行にも適合した動きとされています。
仮に首の回旋時に痛みを伴う場合、単に回旋運動のみを評価するのではなく下を向きながら(屈曲位)の回旋と、上を向きながら(伸展位)の回旋を組み合わせて判断することにより、問題が「側屈と回旋が反対方向」の上部頸椎(C1-C2)に起因するものか、それとも「側屈と回旋が同じ方向」の下部頸椎(C3-C7)に起因するものなのか、または両方なのかをを推察する一つの要因となります。
胸椎・腰椎(Thoracic lumbar)
胸椎と腰椎は、その湾曲(生理的湾曲)の状態や屈曲・伸展の姿勢によって、カップリングパターンが変化します。また腰椎に限っては椎間関節の向きが矢状面に近いためほとんど回旋は起こりませんがわずかながら回旋は確認できます。
上部胸椎:側屈方向と同側へ回旋
下部胸椎:側屈方向と反対側へ回旋
腰椎:側屈方向と反対側へ回旋
【機能不全の特定と調整への応用】
カップリングモーションはカイロプラクティックの施術において、脊椎の機能不全を特定するための重要な指標となります。
・脊椎機能障害(サブラクセーション)の特定:脊椎の運動機能不全(フィクセーション)が存在する場合正常なカップリングパターンが乱れます。
・異常の検出:特定の運動分節に対して意図的に側屈を誘発しそれに対して発生する回旋の程度を触診し検査します。正常なカップリングパターンから逸脱している場合その分節には機能異常(サブラクセーションやフィクセーション)が存在すると推察されアジャストメントを行うかどうかの判断を行います。







